小鳥の日

SS作者:sii
使用テーマ:休日(ややポジティブ)

◆小鳥の日

ごろりごろりと机の上を転がって、溜息を一つ。
週の半ばは休日には程遠い。
かといってうちの様に人手の足りない弱小事務所にゃ
土日休みなんてものもある筈がなく。

「あぁん、もう、休みが遠いぃ」
「ピヨちゃん何やってんのー!」
「ぐわっ!!」

椅子の上で器用に180度回転して机の上に仰向けに転がった所に、
そこそこ大きな二つの影が飛びかかってきた。
おのれ羽根の様に軽い子供とはいえ二人にもなれば生意気にも人並みの重量だ。
たまらん。

「死ぬ!死んでしまうわ!ギブギブギブ!」
「ダイジョーブだよ!亜美達手加減してるし!」
「ねーっ」

二人仲良く微笑み合うのが私の胸の上だというのが非常に忌々しい。
いいからさっさと降りてくれ。
ただでさえ重力に逆らえなくなり始めているというのに、
これ以上しぼまれたらへこんでしまう。主に私が。
あとプロデューサーさんも。なんて。てへ。
あっ、視界が白くなってきた。羽根が降ってる。天使が見えるわ。
このままなら素敵な世界に行けるかもしれない。限界近いぞ。降りろ。

「とにかく、そこ、避けて、ちょうだいっ」
「ええー」
「ピヨちゃんのケチー」

半ば素敵な世界に飛びかけた意識を無理矢理鷲掴みにして引き戻すと、
その勢いで私の上に鎮座まします双子を引きずり下ろした。
途端に肺に空気が回ってくれる。思考がクリアになる。
床に座り込んだ二人はほっぺをぷっとお揃いに膨らませて
鏡映しの様にむくれている。
いじらしくて可愛いのだけど、その希望を叶えてしまうと
私の意識が明後日の方に行ってしまう。
土台無理な話だ。

「とにかく、人の上に乗るんじゃありません」
「えーだってー」
「だってじゃないでしょ!大体あなた達、今日はオフじゃなかったの?
 せっかくの休みなのに何でわざわざ事務所に来たの?」
「えーだってー」

そう言って、亜美ちゃんと真美ちゃんは顔を見合わせると、
にかっと笑って頷いた。

「だって、事務所の方が楽しいしー」
「学校は午前中で終わっちゃったしー」
「ねー」
「だもんねー」

年相応の子供達なのだから、同級生とでも遊んでいた方が楽しいのだろうに。
特に昼時も過ぎた事務所となれば、
午前の仕事が済んでいったん戻ってきた他のアイドル達も
また次の仕事に三々五々出掛けていったところなのだから
大して面白い事がある訳でもないだろう。

「友達とかは?遊ばないの?」
「ううんー」
「今日は断ってきちゃった」

そう言った亜美ちゃんと真美ちゃんは、何故か笑っていて。
せっかくみんなと遊べる休日なのに、もったいないとは思わないのだろうか。
大人になったら、休みが恋しくなるのよ。
そう言いたい気持ちをぐっとこらえた。私大人!

「どうして?」

「だって、やりたい事あったから」
「ねっ」

また、息ぴったりに二人が頷いて。
椅子を私ごと引っ張り出すと、亜美ちゃんは足に、
真美ちゃんは肩に縋り付いて挟み込む格好になった。

「な、何するの、二人とも?」
「だってね」
「ねー」

亜美ちゃんが私の内履き用健康サンダルをひっぺがしながら、
照れくさそうに笑う。
真美ちゃんの小さい、でも温かい手が肩を一生懸命に揉んでくれる。
柔らかな感覚で、ガチガチに硬直していた自分の肩にようやく気が付いた。

「ピヨちゃんさ、最近ぜーんぜんお休みしてないでしょ?」
「だから、真美たちのお休みをピヨちゃんにあげよっかなって!」
「ねー!」

無邪気に笑い合う二人に、じわりと熱いものが込み上げる。
ああ、そう言えば最近ろくに休んでいなかったものね。
椅子を三つ並べて寝るのにも、すっかり慣れっこになってしまった。
つい先日までは食うにも困る弱小事務所だったのが
こうして曲がりなりにも忙しさを感じるようになったのだから、それはとても有難い事。
だけど、確かに身体は正直だし、頑張ってる自分にもご褒美が欲しくなる時もある。

うちの稼ぎ頭に、それもまだ一人前にも満たない子供達に
それを要求するのは癪だけれど。
せっかくの好意なのだから、甘えてあげてもいいのかも。
熱くなる目頭は二人の気持ちに応えてあげただけ。ただそれだけなんだから。

「……ありがとう、亜美ちゃん、真美ちゃん」
「どーいたしまして!」
「ピヨちゃんが喜んでくれたらおっけーだもんね!」

なんていい子達なんだろう。
こんな子達のために仕事が出来て、きっと私は、幸せだ。

真美ちゃんの細くて柔らかな指先の心地良さに、とろりとした眠気を覚え始めた頃。

「せーのっ、えい」
「ぎゃあああああああ痛い痛い痛……あっ、気持ちい……
 でもぁ痛ったあああいいい!!!」

亜美ちゃんの親指が私の足に容赦なく突き立てられた。
これは健康になれそうだ。それもえらく健康に。



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  • 大人な小鳥さんが新鮮です --- (2010/05/01 01:31:42)


  • 最終更新:2010-04-30 22:52:53

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