「誰か、誰か、誰か」


SS作者:並(ならび)P



「誰か、誰か、誰か」


小さく、鈴の音が鳴り始める

リーン  リーン

何かを鳴らす音が聞こえる。
この猛暑のせいで耳までおかしくなってしまったんだろうか。

天海春香は、事務所の前で立ちつくしていた。


本日最高気温三十八度。
小さなビルの二階、古ぼけたビルには光があまり漏れておらず、薄暗がりになっていた。
灰色の曖昧な表情の中での影の中、リボンを付けた少女がいた。
水色のバックを右手に、ハンカチで汗を拭く。
涼しい風を吹かせながら、身体の熱は一向に冷めてくれない。
ぼんやりと、目の前の扉を見つめる。


「プロデューサーさーん……」


ぽろっと、誰に向けるわけでもない声が漏れる。
ドアノブに“もう一度”手をかける。
開かないとわかっていながら、ついつい希望を持ってしまうのは何故だろうとふと考えた。

リーン  リーン

リーン  リーン

汗が噴き出て、手に張り付く。
早く開けてくれないかな。早く来ないかな。
ガチャガチャと、開かない扉に向けて気持を投げつけ続ける。

リーン  リーン

リーン  リーン

リーン  リーン


うるさい。
何が鳴っているんだろう。蝉の声がする。
クーラーの排気音が聞こえる。
人のしゃべる音、歩く音、信号機の親切な警告音。

喉から洩れる、疲労の音。


足音。



「あら、天海春香ではありませんか」

「貴音……さん?」


四条貴音が、そこにいた。
この少し暗い事務所の前でも、映える紫と銀と黄色があった。
その人の繊細さを表したかのような細やかな髪。
今日は髪を後ろで結えているらしい。
両手には、ひまわりの花束。


リンリンリン


細かく音が鳴り、耳をふさぎたくなる。
少し、眉をひそめる。


「あら?大丈夫ですか?」

心配そうにこちらに寄ってきた。

「いえ、大丈夫です」

少し距離を取った。


リンリンリンリンリンリン


うる、さい。
喉が、痛い。


「それで、どうしたんですか?765プロに来るなんて、珍しいですね」
「いえ、ひまわりの花束を頂いたので、そのお礼にと」


リンリンリンリンリンリン

鳴っている音と混ざって、黄色が強く、鈍く、グロテスクに見えてくる。
ひまわり?誰から?誰から?誰から?


「誰から」

「え?」


「いえ、何でもないです」


歯と歯をざらざらと摩擦させる。

舌、喉、目、肌、手。

感覚が、ざらざらと。


「それで、天海春香。あなたはどうなさったんですこんなところで」

「あ、あの、今は誰もいないんです……よ……。」

「あら、それじゃあ“本当にあなたはここで何をしているんです?”」




何をしている?


みればわかるじゃない。

リンリンリンリンリンリンリンリンリン

「プロデューサーさんを……待っているんです」




ガチャ


「お、貴音じゃないか。どうしたんだ?」

「”あなた様!”」


扉が開いた。クーラーの冷気が肌に触れる。
少し薄暗がりが明るく見える。



あなた様という、声が聞こえた。



なんで、扉をあけてくれなかったの?


「あの、ひまわりのお礼を言いたくて」

私、ドアノブも回したのに気付かなかったの?

「あぁ、少し大きすぎたかな。もっと別の花の方が良かったなこうやって見ると」

中に、いたの?

「いえ、こんな綺麗なひまわり、私は嬉しいです」

花束なんて、貰ったことないよ?

「はは、それならよかった。ついでに入ってくか?」

私、あなたの何?

「はい!……あの、天海春香が先ほどから」

リーン


“警告音が鳴った”




「――――――――」




(了)






  • なんだか怖いお話…>< ビジュアル的な表現や春香の心情それぞれが怖さを演出してきて、まだ春先なのだからと並Pを恨めしくw でも面白いから何度も読んでしまいます><; ご参加ありがとうございました、おつかれさまでした。また次回もご参加いただけるとうれしいです^^ --- coro (2010/03/21 02:16:50)

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  • 最終更新:2010-03-20 11:38:57

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