「蝉時雨」

SS作者:オムニP
使用テーマ:蝉時雨

登場人物 貴音 やよい

概ね1時間

◆タイトル 「蝉時雨」

カナカナと、蝉が鳴いていました。
 神社の境内に響き渡るその声はけたたましく、森という森から、声が聞こえてきます。その合唱は、夕暮れにふと気付くそれとは随分と趣が違うもので、日暮という名前からは少し外れているように私、四条貴音は感じていました。
「うわー、凄い一杯鳴いてますねー!」
 隣に立つやよいが、そんな感想を口にします。
「ええ。ここまで凄いと、何か別なもののように思えてしまいます」
 夕に聞くそれも、風情があって良い物ではあります。けれど今聞こえるそれは、生命の力強さに満ちあふれたもので、命とは凄い物だと、改めて思い知らされます。
 ですが……
 それ故に、何か引っかかる物があるのも、事実です。
「賑やかで楽しそうです~」
 やよいが無邪気にそのようなことを言います。
 賑やか。確かにそれはその通り。だけどそれが本質なのでしょうか?
 そんな自問が、顔に出ていたのでしょうか。
「? 貴音さん、どーかしたんですか~?」
 ふと気付くと、やよいが私の顔を見上げていました。
「いえ……」
 否定しようとして、私はあえてそれをやめました。或いは胸中にあったものを、誰かに聞いて貰いたかったのかも知れません。
 後で思えば、この時の私は少し感傷的になっていたのでしょう。
「やよい。蝉の寿命は存じておられますか?」
「蝉のじゅみょう……?」
「蝉が、どのくらい生きられるかです」
 そう言い換えると、やよいは判ったとばかりに答えてくれました。
「確か、学校の授業で、2週間くらいだって聞きました」
「ええ。ですがそれは成虫になってからですね。幼虫は何年も土の中で過ごします」
「そーなんですかー」
 やよいは素直にそう答えてくれます。
「何年も日の当たらない土の中で過ごし、日の目を見たかと思えば数週間で死んでしまう……蝉は少し悲しい存在なのかもしれませんね」
 そんなことを、私は語っていました。
 蝉に名を借りて別なことを話しているとは、流石に明言しませんでしたが。
 長い下積みを経て、日の目を浴びたかと思えば大部分はすぐに消えていく。私たちの歌は、今賑やかに響く蝉時雨のようであって、実は夕暮れに1人寂しく鳴く日暮のように、物悲しいものなのかもしれません。そんな思いを直接吐露しなかったのは、私の矜持と、年上としての威厳もありました。
 ですが、やよいは私が思うよりも、大人だったのかもしれません。
「確かに、そうかもしれませんけど……」
 やよいはそう言うと、私から視線を外し、回りの森を見やります。
 そして、輝く笑顔で、こう言いました。
「でも、みんな楽しそうに歌ってると思います!」
 力強くそう断言するやよいに、私は思わずはっとさせられました。
 確かに、蝉は精一杯鳴いています。後のことなど考えずにただ今一瞬を。
 今思えばその頃の私は、その時を精一杯歌う前に、後のことばかり考えていたのかもしれません。
 今を生きれない者が、後をとやかく言う資格はないのです。私はそのことを、恥ずかしながらやよいに学ばせていただきました。
「難しいことは判らないですけど、楽しければそれでいいかな~って」
 ニコニコと。
 笑いながらそういうやよいは、ひょっとすると、私の悩みもお見通しだったのかもしれませんね。

 蝉の声を聞くと、そんなことを思い出してしまいます。
 あれから一年。羽ばたく時がいつになるかは判りませんが……
 私たちがいつまで鳴いていられるか、その一翼は、あなた様にかかっていますよ?
 ぷろでゅーさー。


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  • 最終更新:2010-08-09 01:31:45

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